あの白い船は? 巡視船だろう。ゆっくりと博多湾から出ようとしている。 福岡海上保安部には巡視船『やしま』『あそ』『むろみ』の3隻と 巡視艇4隻が配属されている。 大きさからして巡視船に違いなさそうだが、3隻のうちどれかまでは分からない。 いずれに…
ひと月以上、病床に横になってスマホばかりいじっている。 何だってんだ! イラつく。 だが、ここを出るには完治か、死しかないのだ。 死を望む者なんているはずはなく、ならば完治するのを待つしかない。 長引くのも仕方あるまい。 下手すれば死んでいたか…
電車の中で、隣に座った若い女性を怒鳴りつけている。 食堂では店員の態度が気に入らないと大声を張り上げている。 いずれもいい年をした老人だ。 こんなキレる高齢者の姿をYOU TUBEなどで見かけることが多くなった。 しかも、それが犯罪につながって…
誰もいない、はず。が、もう一度部屋中を見回す。 この家の中学3年生、15歳の男の子が ちょっとした〝悪事〟を働こうとしているのだ。 居間の片隅に置かれている火鉢、 その中に突っ立っている父親の吸いさしを狙っている。 父も母も、姉も出かけていること…
老年医学・精神科医の和田秀樹さんは、80歳を超えた人を「幸齢者」と呼ぶ。 また、「島耕作」シリーズで著名な漫画家・弘兼憲史さんは、 80歳を超え「人生100年時代」を生き抜く、この余生を「老春時代」と呼んでいる。 いずれも「高齢者」や「後期高齢者」…
高齢期になると、「健康の喪失」という災厄が襲ってくる。 何事につけ経年劣化は避けがたいが、五臓六腑のあちこちも やはり長年の〝勤続疲労〟が現れてくるし、足腰の関節は歪んで痛む。 もう一つ、この「健康の喪失」に勝るとも劣らない 悩みをもたらすの…
あれからもう26年ほども前か。 あの日のことを思い出せば、今でも涙が出そうになる。 妻と向かい合っての夕食。 2人とも何かを思う風に一言もせず、箸の動きも鈍い。 そんな重苦しいような空気を妻が破った。 「やはり、迎えに行きましょう」 思いは同じだ…
ウオーキングコースとしている川べりの石段の木陰に すっぽり包み込まれるようにして 若い男女が座っていた。 少し早めの昼食だったのだろうか、 近くのスーパーのレジ袋からドーナツみたいな そんな形をしたパンを取り出した彼女は、 かすかな笑みを浮かべ…
あの朝鮮戦争が終わって2年か3年、僕は小学3年生だった、と思う。 学校から戻ると、家には誰の姿も見当たらなかった。 だが、なぜか風呂場からザァーザァーと水の流れる音がした。 「かあちゃん 風呂に入っとっとね?」と呼びかけると、 「ああ お帰り」くぐ…
50歳になるかならない頃だったと思う。友人が、 「お前もいよいよ爺の仲間入りだな」と言った。 いささかむっとして「そりゃ、なぜだ」と問うと、 「鼻毛、鼻毛。鼻毛がひょろっと出ていても一向に気にしない、 そんな爺になったわけだよ」ずばっと返され…
伊藤左千夫の『野菊の墓』を初めて読んだのは、 中学生になったばかりの頃だったろう。 だからもう70年ほども前になる。 15歳の政夫と2つ上の従姉・民子の間に芽生えた純粋な恋が、 世間体を気にする大人たちによって引き裂かれ、悲劇的な結末を迎える恋物語…
バカバカしく、それでもちょっぴり切なくて……爺さんが一人つぶやく。 昼時になると順番待ちの列が店外まで延び、またSNSによるのだろう、 外国人客が結構多い評判のトンカツ屋。 僕のひいきの店であり、定番のランチメニューは『トンカツ膳』だ。 大きさ…
いとおしい。 朝の6時頃、電話が鳴った。病院からだった。車を走らせる。 看護師さんの腕の中に小さな、小さな女の子。 僕の腕にそっと渡された。 初めての孫。こわごわ、わくわく。何だか妙な感覚。 腕にきゅっと力を入れた。 側にいる、その子はもう28歳…
「はい、これが最後のお年玉だよ」──そう言って手渡せば、 孫娘は「長い間ありがとうございました」と頰を崩しながら、 年長者に屠蘇を注いで回った。 集まった家族の中で最年少のこの子は2月には23歳になり、 半年間の海外留学を経た大学は3月に無事卒業す…
何かを「決断」する時、事の大小にかかわらず「勇気」がいる。 「決断」と「勇気」は重なり合っていると言ってもよく、 それ次第で人生が大きく転換することもあるし、 日々の暮らしにちょっとした色彩を添えることもある。 新聞の投書欄に、見出しに「勇気…
手をぐっと握れば甲の皺は隠される。 試みに開いてみれば、 たちまち皺に覆われた手へと豹変した。 血管が浮き出、ところどころにシミ。 短い指、みっともなく不格好な手に苦笑する。 泣きながら、抱かれた母の乳房を求めた手。 息絶え床に横たわる父の、う…
父の享年は68歳だった。それよりすでに15年長く生きている。 どうやら平均寿命にも達した。さて、あと何年? 鏡に映る体はくの字、脚はOの字。 もう治しようがないですね─きっぱりと医者 診察券9枚。内科、整形外科、泌尿器科、皮膚科、 歯科、眼科、…
「母はもう生きるのを諦めたんじゃないかしら。 病室のベッド脇に置いてあるゴミ入れには、薬がそのまま捨てられているのよ。 どうしてって尋ねてみても、笑うだけで何にも答えないの」 ──妻は俯き、涙の落ちるままにした。 義母は末期の大腸がんだった。 そ…
50に近い年だったと思う。 自治会のソフトボールチームに駆り出されたことがある。 本格的な野球経験があったわけではないが、 野球少年だったし、中学では1年生の1学期まで野球部に入っていた。 その程度の経験だったが、それでも社会人になってからも 会社…
七度目の年男。足腰すっかり衰えた老馬でございますが、 日常の身の回りの事どもを書き連ねてまいりたいと思います。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
皆様 今年一年この拙いブログをお読み頂き、ありがとうございました。 どうぞ良き年をお迎えください。 来年もよろしくお願い致します。
「父は仕事が忙しく、休日は疲れているのか、 よく寝ていました。 ところが、2か月前から休日の夕飯を 調理してくれるようになりました。 キッチンに立つ父の姿を初めて見た時には、 『明日は大雪が降るのではないか』と 思うほど、驚きました。 父は買い物…
目覚め、スマホを手にするとLINEが着信になっていた。 誰が、何事だろう。 開いてみると、友人が一本の動画を送っていた。 「これを見よ」とだけで、何のコメントもつけていない。 その動画の人物には見覚えがある。 アラン・ドロンだ。 彼は昨年8月8…
愛おしい姪が2人いる。 姪と言っても小さな子ではない。2人とも60後半、 お婆さんと呼ばれてもおかしくない年だ。 一人が長姉の一人娘。僕が高校1年か2年の頃だったと思う。 姉がその幼子を連れ遊びにやって来た。 この姉が僕を母親のように可愛がって…
嫉妬する。 地下鉄で乗り合わせた、おそらく何かの運動部の学生だろう。 どやどやと乗り込んでくるなり、「ちぇっ」と舌打ちしたくなった。 別に彼らのマナーがどうだと問うているのではない。 彼らの体つきに対してなのである。 彼らのすごい体つきに対する…
末っ子故だったのか、父から大変にかわいがられた。 父は登山やハイキングが好きで、いつも山登りに、キャンプにと連れて行った。 その帰り道、海水浴場で遊んだこともある。 小学3、4年生ごろまでの話である。 僕自身もそうだったが、男の子は友人との間で…
「腐れ縁」という。僕にもそう言えるような人が一人だけいた。 年齢は17歳上、親子というほどではないが、年の離れた兄といったところか。 社員が20人足らずの小さな会社のオーナー社長だった。 少々失礼な言い方ながら、2人はまさに「腐れ縁」、そんな…
平成10年4月8日だから、もう27年前になる。享年89歳だった。 久しく墓参りもしていないが、我が家の簡素な祭壇にいて マリア像の横で柔和で優し気な笑顔を見せてくれている。 母との幼き日々の思い出は多くない。 いろいろとあったに違いないのだろうが…
年を取ると筋肉の衰えなんてあっという間だ。 そうとあって、かかりつけ医からも「30分以上のウオーキングを週3回以上」 などとアドバイスされてもいる。 もう一つ、年寄りにとって運動と言えばラジオ体操がすぐに思い浮かぶ。 適度に体を動かせるから小…
妻は4人姉妹のいちばん下である。 彼女を挟んで兄、弟がいたのだが2人はすでに亡く、対する4人の姉妹たちは、 長姉が妻よりちょうどひと回り、12歳上の89歳であり、 皆高齢ながら身を病み、心を塞ぐことなく元気だ。 その長姉が、佐世保から妹のいる…