この病棟には、ここ10年間で11度目だ。
最初は前立腺がん、その1年後からは4度の膀胱がんに見舞われた。
がん発生からすでにそれなりの年月が経っているから、
医師は「がん再発はほぼ大丈夫だろう」と言ってくれてはいる。
だが、このところは泌尿器に起因するさまざまな病に悩まされ、
それが11度目という入院になっているのである。
今や持病みたいになっているのが発熱。
細菌が泌尿器に侵入し炎症を引き起こす。それが高熱となるのだ。
ひどい時は39度を超す。
今度もそうだった。じわじわと上がり38度を超してきた。
医師からは「38度を超えたらすぐに連絡するように」と言われている。
だが、あいにくの土曜日。この病院も休診日だ。
仕方がない。救急外来へ駆け込んだ。
実は昨年2月、同じような症状で入院している。
だから、入院支度をした上で救急外来へ駆け込んだのだが、
案の定、そのまま入院となった。
熱はどんどん上がる。39.6度まで上がった。
伴って悪寒で体はがたがた。
息遣いも荒く、酸素吸入となった。
やっと3日目ぐらいから熱は収まり、
点滴による抗生剤の効果を待つことになった。
ただ、熱は収まったものの白血球の増加など血液の状況が芳しくない。
これの改善に結構時間がかかった。

爺さんばかりの4人部屋。
入口に記される部屋名は『ぶどう』。さらに、その下に折り鶴10羽が下がっている。
年寄りの多い病棟。しばしば〝迷い子(いや、爺婆)〟が出る。
ドアに折り鶴なんかをぶら下げているのは、
そんな〝迷い子〟を少しでもなくそうとの思惑からであろう。
部屋は4人それぞれがしっかりとカーテンを巡らせている。
だから、顔を合わせ会話することもない。
誰がどんな病なのか。気にはなっても知りようがない。
わずかに、朝夕訪れる担当医師との、あるいは看護師たちとのやり取りから
それぞれの病状をうかがい知ることが出来るだけだ。
ピーポー、ピーポー……どこが痛いのか、苦しいのか、
また誰かがこの病院に運ばれてくる。
病室に届く、その苦痛は我が身をも混濁させる。
この病、いつ治るのか。いつこの病室を出られるのか。
自らは随分と和らいだと思っても、医師の見立てに心は薄曇りだ。
そこへまた、ピーポー、ピーポーとやってくる。
退院できたのは14日後だった。