Toshiが行く

3人の孫の成長に目を細める80歳代爺さん

意地悪な血管

 

血管が細い。

それで採血とか、点滴とか、看護師さんたちは決まって困った顔をする。

腕のあちこちをバンバンと叩き、「血管よ、浮き出てこい」とやるのだが、

針を刺せる適当な場所がなかなか見つからないのだ。

「もう、意地悪なんだから」色っぽく言われたりして、

思わずニヤッとすることもしばしばだ。

 

何度も採血や点滴はやっているから、

ここの血管なら大丈夫だということは分かっている。

それで、こちらから「いつも、ここだけどね」と言ってあげる。

そして、一滴も漏らすことなくできた看護師さんには、

「さすが、うまい!」と添えることにしている。

「意地悪な血管」に対する多少の詫びの印しだ。

だが、中には「もう、私には無理だわ。先輩、お願いします」と

投げ出す若い看護師さんもいる。いやはや、申し訳ない。

 

   

 

以前、入院した時のことだ。

手術前の点滴の際もやはり、「さてと、どこがいいかな」

看護師さんが腕のあちこちを探った。

「血管が細いのでね。すまんね」と詫びると、

「人それぞれですからね。でも、それをクリアするのがプロです」

頼もしい根性を見せながら、

「ちょっと右手をぐーっと握り締めてくれませんか」と続けた。

言われるまま、右手に力を入れると、

「おおっ、すごい」一瞬何に驚いたのか分からなかったが、

「前腕部の筋肉がむきっと盛り上がる。おまけに堅いですね」と言うのだ。

「ええっ」と今度はこちらが驚いてしまった。

「何か、スポーツされていたんですか」

「ああ、中学から大学まで10年くらい器械体操やってたよ」

「あのクルクル回るやつ?」「そうそう、鉄棒や床運動ね」

「テレビで見ると選手は皆筋肉モリモリですよね。

それでなのか。○○さんも。ついでに腕をぐいと曲げてみせてください」

図に乗って右腕に力を入れ曲げると

「おー、見事な力こぶ。立派、立派」と言ってくれた。

 

実は、年を取り、すっかりしょぼくれた筋肉を嘆く日々なのである。

それなのに、このベテラン看護師さんは「力こぶ、立派、立派」だなんて言って、

手術を控えた患者を励ましてくれる。

ちょっとした勇気をもらったよう気がしたのは確かだ。

そして、「それでは、少しチカっとしますよ」言いながら、

右手首付近の浮き出た血管に針を刺した。

「うまい!」と言えば、ニコリと笑顔を返してきた。