Toshiが行く

3人の孫の成長に目を細める80歳代爺さん

軍曹殿

 

軍曹殿はますます“鬼”になっておられる。

「はい、これ」「はい、あれ」と次々に新しい任務を与えられる“老”二等兵

勝手が分からず右往左往させられる。

 

80歳で最前線での戦いを終え、今は兵舎でぐずぐずと暮らす身だ。

そうなった二等兵をつかまえ軍曹殿は、「前線で戦うことはなくなったのだから、

新たに風呂掃除、ごみ出しの任務を与える」と命じられたのである。

ここらあたりの任務は、同じような境遇の同輩がたくさんいるようだから、

さして苦痛でもなければ、不平を言うほどのことでもない。

 

だが、任務は徐々に増えていった。

毎週土曜日には、兵舎の掃除が新たに加わった。

部屋中隅々に掃除機をかけるだけで、拭き掃除ということまでは免れているが、

自分が寝起きし、寛ぐ場所とあれば、掃除には念を入れる。

兵舎の掃除が終わると、今度はこれまで通りの風呂掃除だ。

さらに、たまに兵舎出入口(玄関)や周辺(ベランダ)にデッキブラシをかけたりする。

ここらあたりが、主任務というところか。

 

    

 

これに最近、配膳係という新たな任務が加わった。

テーブルに食器を並べ、箸をきちっと揃えて置く。

軍曹殿は食事の際、ビールを飲まれるからグラスも忘れてはいけない。

お茶の用意、茶器に茶を入れ、湯を沸かして注ぎ、

自分の湯飲みを用意するのは二等兵の任務になっている。

このように新たな任務を次々に命じられるのである。

 

しかも、このところ軍曹殿のご機嫌があまりよろしくない。

得体の知れない帯状疱疹とかいうものが攻め込んできており、

身体のあちこちが痛いやら、痒いやららしい。

それでストレスが溜まり、つい苛立つようだ。

おまけに、軍曹殿は3度、3度の食事を担当されておるから、

余計にそうなのであろう。

 

だからなのだと思う。

命令口調が日増しに厳しくなってきた。

たとえば、掃除機をかけようとすると、

「その掃除機、前のごみが入ったままだろう。ちゃんと始末してからにせよ」

「ここはちゃんとやったのか。まだ、ごみが残っているではないか。

それでは二度手間になってしまう。何を考えているのだ」などと叱責される。

風呂場に行けば、

「浴槽だけではだめ。床もしっかり磨け。ついでに鏡、壁、天井も」

「流し部分のごみはちゃんと処理したか」

細々とした命令が飛ぶ。

つい、「では、ご自分でどうぞ」と言いたくなるが、

そこをぐっと我慢できるのが古参兵だ。

世間では堪え切れず、軍曹殿に手を上げてとんでもない事態を

招いていることもあるそうだが……。

 

帯状疱疹が退却すれば、軍曹殿の苛立ちも少しは収まるだろう。

我慢、我慢である。